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「敷金」って何だ? 敷金を少しでも多く取り戻したい人がするべきこと

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イメージ/©︎gnohz・123RF

【2022年4月更新】

敷金は「預ける」お金

賃貸住宅を借りるときに支払うお金——敷金。

否、支払うというのは間違いで、敷金は「預ける」お金だ。建物賃貸借契約が終了し、入居者がその物件を明け渡すまで、敷金は貸主(オーナー・大家)に預けられる。

もっとも、最近は敷金を預からない物件も出てきている。入居者の負担感を除くためだ。礼金0と併せていわゆる「敷0・礼0」が設定されることもある。しかしながら、礼金に比べると、敷金0の例はさほど多くない。なぜなら、敷金は賃貸住宅オーナーにとっては、将来のリスクに備えるためのとても大事な意味をもつお金だからだ。

敷金の定義は法律で決められている

敷金とは何か? 実は法律でその意味がちゃんと定義されている。抜粋してみよう

「いかなる名目によるかを問わず、賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭をいう」(民法第622条の2第1項の一部)

ややこしい言い回しなので、例を示そう。

例えば、ある賃貸物件の賃貸借契約が終了したものの、入居者が以前に滞納した家賃がまだ支払われずに残っている場合、それは「賃借人(入居者)の賃貸人(オーナー)に対する金銭の給付を目的とする債務」になる。

こうした債務を担保する目的で、「賃借人が賃貸人に交付する(預けておく)金銭」が敷金だ。

同様に、入居者が居住中、誤って部屋を破損させたり、汚してしまったりした場合などで、その状況が「常識的に暮らしていれば起こりえないでしょ」といったレベルに達していれば、それはやはり債務になる。つまり「弁償しなさい」だ。これを担保するためにも敷金は使われることになる。 

と、いうよりも——、敷金の主な用途としては、後者の弁償=「原状回復」が実際もっとも多い。

賃貸の「原状回復」とは何か?

原状回復とは何か? 説明のため古い話をしよう。賃貸物件の原状回復については、90年代くらいまではこう考えるオーナーも多かった。

「原状回復とは、部屋を貸す前の姿に完全に戻すことだ。つまり、新品の壁紙が貼られた部屋に入居した人は、退去する際、新たに自己負担で壁紙を全部新品に貼り替えなければならない。要は、新しい壁紙の代金を全額負担しなさいということだ」

これは、原状回復をまさに字義どおり捉えたものだが、この解釈はしばしば深刻なトラブルを招いた。

「無理を言わないでくれ。人が住めば、悪気も過失も一切なくても建物は時間の経過により劣化する。それが当たり前だ。そこをつかまえて、家賃以外にさらにお金を払えと言うのか。賃貸オーナーは、そうした劣化に備える意味でも、普段から家賃を貰っているのではないのか?」

こうした争いが続く状況を大きく変えたのが、98年に国土交通省が取りまとめた「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」だ。

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原状回復をめぐるトラブルとガイドライン

原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」によって、曖昧だった賃貸住宅の原状回復はこう定義されることとなった。

「賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること」

さらに、

「いわゆる経年変化、通常の使用による損耗等の修繕費用は、賃料に含まれる」

そのうえで、このうち前者による原状回復が行われる場合にかぎっては、費用は賃借人負担とされた。

例を挙げよう。

例えば、年月を経て自然に変色した壁紙の交換費用は、それ(交換)を行いたいのならば、費用を負担するのは入居者ではない。オーナーだ。

なぜなら、これは入居者の「故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損」ではないからだ。「経年変化、通常の使用による損耗等」に当たるからだ。

では、入居者の吸ったタバコのヤニや臭いが壁紙に付着していた場合はどうだろう。こちらはオーナーではない、入居者負担だ。喫煙という、まさに個人の故意による汚れが、物件を「通常の使用を超える」かたちで毀損させてしまっているからだ。

よってこの場合、オーナーは壁紙を交換するにあたって入居者に費用の負担を求めることができる。「お預かりしている敷金から引かせてもらいますね」が可能となるわけだ。

法律による原状回復の明文化

この「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」は、内容が合理的で偏りがないこともあって、取りまとめ以降、不動産業界に広く浸透した。さらに、2017年にはガイドラインの考え方が、改正民法にそのまま引き継がれることにもなった。同法第621条によって、賃貸住宅の原状回復は法的にも明文化されたことになる。以下に抜粋しよう。

「賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く。以下この条において同じ。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う」(民法第621条の一部)

そのため、近ごろはさきほどのような強引な解釈を示すことで、深刻な原状回復トラブル=敷金返還トラブルを招くオーナーはかなり少なくなっている。

また、たとえオーナーが新たな民法やガイドラインを知らなくとも、彼らをサポートしている管理会社等が、リスク管理上、無理を言わせないことも多い。つまり、敷金は過去に比べて格段に戻って来やすくなっている。はずなのだが……

実際のところ、それはあくまで理屈だ。現実には逆のことが起きている。近年広く一般化した皮肉な現象がそれだ。

クリーニング特約とは?

その現象とは、いわゆる「クリーニング特約」の広がりを指す。クリーニング特約は、現在世のなかで交わされている居住用建物賃貸借契約のうち、かなりの数において採用されているものだ。

具体的には、契約書の条文の中にあらかじめ以下のような規定を設けておく。

「退去時、室内クリーニングの費用は借主負担とする」
「退去時、室内クリーニングの費用〇万〇千円は借主負担とする」

そのうえで、こうした契約を結んでしまえば、敷金が入居者の手元に全額戻ってくることはほぼなくなってしまう。特に後者では、入居者がどれほど部屋を大切にし、キレイに暮らしたとしても、〇万〇千円は問答無用で敷金から差し引かれる可能性が高いだろう。

逆に、他人よりも余計に部屋を傷つけたり、汚したりしがちな人にとっては、それでも決まった額までで負担を済ませられるケースが増える。後ろめたくもラッキーな結果となることも、当然増えてくるはずだ。

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クリーニング特約は民法違反?

ところで、クリーニング特約については、法律の専門家などはこれを「通常損耗補修特約」などと呼んだりする。

民法やガイドラインの規定に沿えば、本来入居者が負担しなくてよいはずの「通常損耗」の補修を負担する約束——との意味になる。

もっとも、クリーニング特約が正しく成立するにあたっては、合意の客観的具体性、および明確性が求められるとする見解も専門家の間では一般的だ(2005年の最高裁判決が根拠)。すなわち、入居者が負担させられる通常損耗等の範囲が、契約書に具体的に明記されていることなどが要求されることになる。

また、定められた金額が常識に反して高額だったり、入居期間がかなり短い場合でも履行を迫られたりといったことがあれば、クリーニング特約の有効性が司法の場で否定されるケースもおそらく生じることだろう。

さらに、こんな疑問を持つ人もいるはずだ。「民法の規定に明らかに反するかたちのクリーニング特約が、実際に“横行”しているのはそもそもなぜなのか」——?

答えは、民法第621条がいまのところ任意規定である旨、多くの専門家によって解釈されているからにほかならない。

任意規定とは、法律による定めはあるものの、それとは異なる合意や契約が行われた場合、そちらが優先されるものを指す言葉となる。

こうした、ある意味理不尽なクリーニング特約が、さきほどの「ガイドライン」が浸透するのに合わせて、ここ10年ほどの間に一気に広まった。

その理由は、無論のこと「上に政策あれば、下に対策あり」で、原状回復に関わる費用をオーナーが入居者へ求めづらくなっていくのに対抗してのことなのだが、あまりオーナーを責めてもほしくない。彼らも必死なのだ。

脱落者も多い厳しい競争のなか、多大な投資リスクを抱えての賃貸経営に大勢のオーナーが四苦八苦している現状もあるということだ。

敷金と原状回復費用のここ約30年

さて、一旦以上をまとめよう。

敷金と原状回復

・敷金とは、賃貸住宅を借りる際、入居者がオーナーに預けるお金のこと
・敷金は、入居者がオーナーに対して抱えた債務を担保する
・敷金の用途は、原状回復に要する費用となることが実際には多い
・原状回復の解釈については、オーナー、入居者間での乖離も過去にはよく見られ、深刻なトラブルになることも多かった 

原状回復の明確化

・原状回復の定義については、98年に国交省がガイドラインで明確化した
・ガイドラインの考え方は、17年の改正民法により法律上も明確化した
・ガイドラインや民法の浸透により、原状回復に絡んでの深刻な敷金返還トラブルは少なくなった 

クリーニング特約の広がり

・一方で、ガイドラインと民法の意義を失わせるクリーニング特約の設定も、近年大きく広がっている

敷金を少しでも多く取り戻すためにするべきこと

ではいよいよアドバイスだ。敷金を少しでも多く取り戻すためにすべきこと……それは何か?

「いやいや、私の場合、例のクリーニング特約で取られる金額が決まっています。アドバイスは必要ありません」——という人も、ここでナメてはいけない。

なぜなら、金額の定まったクリーニング特約があったとしても、多くの契約において、それは決して「上限」にはなっていないはずだからだ。

借りている物件に通常損耗を超える損耗や毀損(故意・過失、善管注意義務違反等によるもの)があった場合は、特約の額を超えて、原状回復費用を求められることは十分にありうることだからだ。

ある達人のテクニックを紹介しよう。

敷金取り戻しの達人がやっていること

ある達人——仮にAさんとしよう。Aさんは、これまで暮らしてきた5軒の賃貸住宅(全ての物件で3年以上居住)において、一度も敷金から原状回復費用を引かれた経験がない人だ。唯一、金額の定められたクリーニング特約が設定されていたひと部屋のみで、その額を敷金から支払ってはいるが、ほかではすべて全額返還を勝ち得ている。 

もっとも大事な答えから言おう。Aさんは、退去する前にいつもピカピカに部屋を掃除する。引っ越しの準備がてら、くまなく掃除するのだ。傷が見つかれば、もちろん丁寧に補修もする。

のみならず、Aさんは少なくとも年に1度は大掃除も敢行する。そのうえで、退去前の総仕上げも行うことで、「私が入居した時点よりもお部屋はキレイになっていますよ」——堂々胸を張って、オーナー側に伝えるそうだ。

「入居時は、窓の周辺や洗面台の陰などあちこちカビだらけでしたが、いかがですか。ご覧のとおりいまはきれいでしょう」

実際にキレイなので、退去の立ち合いに訪れた管理会社のスタッフも、あるいはリフォーム会社の担当者も(いまはこのケースも多い)、皆「恐れ入りました」の状態になってしまうそうだ。

ちなみに、「入居時はカビだらけだったって、本当ですか?」と、万が一疑ってかかる相手がいたとしても、Aさんにはちゃんと備えもある。入居時、部屋中の汚れやキズを残さず写真に撮ってある。

もっとも、これまでそうした証拠写真に出番があったことは一度もないそうだ。それ以前に、相手がすっかり“恐れ入って”しまうからだ。

無論、それだけでなく感謝もされる。オーナーにとって、ときに物件はわが子のようなものだ。大切に扱ってもらって嬉しくないはずはない。

どうだろう。真似するのは難しい?

いやいや、Aさんがいうには「私は『立つ鳥跡を濁さず』を実践しているだけ」とのこと。聞かされるこちらは耳が痛いが、考えてみれば人生当たり前の心がけともいえるだろう。このAさんを多少とも見倣ってみれば、その分、あなたの敷金は金額を増して戻ってくることになるかもしれない。

なお、前提としてAさんはタバコを吸わない。さらに、カビを呼ぶ部屋の湿気については日頃からかなり気を使うそうだ。適度な換気を欠かさない。

「自分のためでなく、オーナーのためでもなく、長年暮らした部屋にこそ感謝するために」——ピカピカに磨いて、立ち去るとのことだ。 

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賃貸住宅に住む人、賃貸住宅を経営するオーナー、どちらの視点にも立ちながら、それぞれの幸せを考える研究室

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